それからはスープのことばかり考えて暮らした
それからはスープのことばかり考えて暮らした 吉田 篤弘 関連商品 空ばかり見ていた 十字路のあるところ という、はなし つむじ風食堂の夜 78(ナナハチ) by G-Tools |
タイトルの「スープ」の前に、主人公の青年はまずサンドイッチについて考えることになります。青年が引っ越してきた町の、商店街の片隅にあるとても小さなサンドイッチ屋。青年はふとしたきっかけでそのサンドイッチ屋で働くことになります。そのお店の主人と、小学生である主人の息子。青年はお店で働くことによって、その二人の内情を知ることになります。
青年がこの町に引っ越してきた理由というのは、青年は映画好きで、、といっても全ての映画を満遍なくというより、映画の中で数分、時には数十秒しか出演しないとある女優さんの大ファンであって、その女優の出演する映画ばかりをもっぱら好んで観ます。そしてどうやら青年は映画館自体も好きなようです。青年は引っ越す際、映画館のある町に引っ越してしまうと、自分が映画館に居座ってしまうという恐怖感と、「映画館に行く」という楽しみが無くなってしまうと考え、わざわざ映画館のある町の1つとなりの駅、を選ぶことになります。わたくしとしましては、自分が青年に似てるところもあるなぁ、と感じたので感情移入して読んでいました。とくに「オーリィさんは、ちょっとキョクタンなところがあるって」「前はぜんぜん仕事もしないで休んでばかりだったのに、働き始めたら休みの日まで働いてるって」と言われるくだりが。
引っ越してきた部屋の大家さん、サンドイッチ屋の主人と息子、映画館でいつもみかける年配の女性、場所は引っ越してきたアパートとサンドイッチ屋と映画館、によって話は進んでいきます。
読んでみると、非常に丁寧に言葉を選んで話を書かれてるなぁ、ということが分かると思います。ストーリーのリズムや空気感を壊さないように、言葉を1つ1つ大事に丁寧にピンセットでつまんでは置いていくような。けれどそういった「緻密さの押しつけ」のような嫌味さは全く無く、あくまでさりげなくです。時間の流れが独特で、ふわぁーとゆったりした、それでいて暖かみのある優しい気持ちになります。
著者の作品はこれ以外にはちらっと見ただけで、まだ読んだことはないのですが、基本的にはこんな感じの空気が全作品に流れているんだろうと思われます。著者の頭の中ではこの町の地図が存在してるようで、他の著作にも同じ地名が出てきます。著作を2冊3冊と読んでいく内に、なんだかその世界の住人になったような気持ちになるだろうなぁ、と思われます。