再びプロレス技の伝授について。~「大事に使ってね」の意味~
先週水曜発売の週刊プロレスに、今日引退するドラゴンゲート吉野選手の記事が載ってた。自身の引退ロードの最中、自分の今まで使ってきた得意技の伝授を団体の若手選手にしてきたとのコトで、自身のフィニッシャー、ソル・ナシエンテ(腕を決める関節技)を同団体若手の箕浦選手に受け継いでもらうという内容の記事だった。
その中で興味深かったのは、コレも自身の得意技の1つであるライトニングスパイラル(豪快な投げ技)は「危ないから誰にも譲らない」という一文だった。何故譲らないかというと、理由は「あの技はかけられた側の首とか肩に負担がかかるので、誰も自分のような状態になってほしくない」とのコト。吉野選手は↑の記事の見出しにも書いてあるように首の状態が思わしくない。ソレが今回の引退の引き鉄となった。
ワタクシは以前「なぜ北斗はノーザンライト・ボムを伝授しないのか。」というブログを書いた。その記事はいまだにアクセスがケッコー多い(あくまで「ワタクシのブログでは」だけど)。今回の内容ははソレの補足になる。ワタクシはじじいなのでクドくなるのはご容赦いただく。
少し話は変わるが、以前書いただろうか。ダイナマイト関西選手が自身のフィニッシャーであるスプラッシュ・マウンテンを山下りな選手に伝授した話。この技の伝授するしないもプロレス的ストーリー的展開したのち、関西選手が引退する直前に山下選手が認められて受け継いだ。
豊田真奈美選手も自身の技、ジャパニーズ・オーシャン・スープレックスをアイスリボンつくし(現春輝つくし)選手に、ジャパニーズ・オーシャン・サイクロン・スープレックスを同団体藤本つかさ選手にソレゾレ伝授した(ついでにジャパニーズ・オーシャン・クインビー・ボムはシードリング高橋奈七永選手に)。あとたしかサイクロンは男子の日高選手も許可されてるはず(豊田嬢の同郷ゆえに)。
コレもソレゾレストーリーがあって、とくに引退する選手側、伝授する側が技に思い入れが強くある。ソレと同時に伝授する側の責任というモノが存在する、というコトは「なぜ北斗は~」で書いた。
技の伝授というのは、デリケートでフクザツなハナシだとワタクシは思う。伝授する側される側の信頼関係が築かれてないと、伝授する側としてもそう易々と許可するワケにはいかないだろう。
伝授する側、ようは引退する選手としては、たぶん2つの気持ちが同居する。自分の技を誰かに受け継いでもらいたい、自分がいなくなっても自分の存在の証をリングに残したい気持ちと、自分以外の人が使えるのかどうか、危ないからできれば使って欲しくないという気持ち。この2つの気持ちが常に揺れ動いている。だがソレが伝授される側との信頼関係を築くコトで、ようやっと「受け継いでもらいたい」の方に気持ちが傾く。おそらくそういう心理状態なのだと思う。そのやりとりが大事なのだ。その揺れ動きや決心、伝授する側の覚悟なども表現して観てもらうのも「プロレスの一部」なのだとワタクシは思う。おそらく引退する選手にとって、ソレが最後の仕事だと思う。
引退する側の考えとしては、自分と同じ目を持てる人、ようは相手選手の実力の見極め、「この選手ならコレぐらいは受けれるだろう」という判断、ソレが自分と同じだと認められれば伝授にOKを出す、というコトなんだろうと思う。伝授する選手が伝授される選手の実力を見極めて「この人なら自分の代わりにやってもらってもいい」と思えるかどうか。その見極めの時間が大事なのだと思う。自分はリングにはいないけど、自分の代わりにやれる選手。
ソコで吉野選手のライトニングスパイラルの話に戻る。自分の技を譲る譲らないは選手個人個人の考えがあるだろうからもちろん構わないとワタクシも思う。なぜ吉野選手はライトニングスパイラルを譲らないかといえば、もしこの技を自分が伝授して「公認」となるコトで、伝授された選手が万が一、技をかけられた選手に何かあったとしても、自分は責任を取れないからだ。だから「大事に使ってね」と伝授する側は言う。技への愛情云々のハナシではない。まーまったく「ではない」とは言い切れないけど、愛情云々は2番目なのだ。
「(私が公認したこの技使って何かあっても困るから)大事に使ってね」が正しい。この言葉が発せられるとき、前置きの言葉が省略されているのだ。